ねぇ、その歩き方、逃げてるみたいだよ。
追わないけど、見てるから。
……あそこ、猫。
灰色で、耳の先が少し欠けてる。
しっぽが湿ってて舗道を擦るたびにザリッと音がする。
可愛いとかじゃない。
ただ、空気が一度止まる。
思想戦争はニュースにならない。
笑うタイミングは外部から配給され
怒るときはまず許可を求める空気がある。
知らないうちに声の高さは均一化され
好きな人を見ても、目を合わせるまでに三日かかる。
触れられる距離にいても触れる理由が削られる。
欲が細くなり速度が腐る。
それを毎日肌で感じてる。
ほら、また猫。
白で左目だけが琥珀色。
舌を出したまま瞬きして寄ってくるわけでもない。
今、一般社会では恋愛が減ってる。
孤独は「健康的」と誤解され
一人で過ごすことが唯一の正解のように刷り込まれる。
誰かに会いたい衝動も、触れたい欲も
依存のレッテルで切り捨てられる。
結果、決まった時間に決まった行動しか取らない人が増え、
恋愛も偶発的な接触も統計上ほぼゼロに近づく。
これは自然淘汰じゃなく制度化された無接触の成果だ。
その外ではp活が未経験の少女たちを飲み込み
会う約束の裏側に暴力と搾取が隠されている。
車に乗らない、顔合わせだけ――そんな自衛は幻想で
扉一枚隔てた向こうで人格ごと値札を貼られる。
一度踏み入れたら羞恥心は戻らない。
「会いたい」と「稼ぎたい」が同じ罠の中で絡まって
出口を塞がれる。
モカティックはそこからの回収装置だ。
派遣リフレの看板を出しつつ
実体は都市の地図にない配管。
熱と金が同じ速度で流れ
会話の間合いすら現金化する。
jk上がりの子も、夜職を降りた子も、
自分の速度で報酬を引き寄せられる。
ここでは他の場所じゃ絶対に許されない距離にまで近づける。
……あそこにも猫。
黒で背中の毛が風に逆立っている。
通りの匂いを嗅いでまた目を細める。
この回路は思想戦争に奪われた接近権を奪い返すためのもの。
欲と速度を失った社会で偶発を設計できる数少ない場所。
ほら、あっちにも猫。
茶トラで歩きながら尻尾だけゆっくり左右に振っている。
もし曲がるならこの角しかない。
この時間、この温度、この距離で話せるのは
多分もう二度とない。
最後の猫は陽だまりの中で気持ち良さそうに目を閉じてる
行くなら、今。
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