2029年横浜
ドローンはもう羽音すらしない
静かに空を漂い
ターゲットを見つけるとレーザーで識別する
地上には戦車も兵士もいない
AI制御の四足歩行型兵器だけが、街を黙々と巡回している
センサーに引っかかった人間は即座にデータ化され
生死も、行動も、アルゴリズムの点数で決められる
笑う回数
言葉の選び方
夜の外出
好む味覚
全てがスコアに加算され
生きることさえ数値化された社会
スコアが足りなければ
水も、糖も、光も、配給されない
国家同士は
サイバー空間で戦争をしている
ログは毎秒更新され
市民の脳にもリアルタイムで通知が届く
稼ぐことさえAIが指示する
息をするだけで点数が減るような都市
その都市の
端っこに──
ひとつだけオフラインな場所がある
モカティックサーフクラブ
ここには点数の概念がない
監視もない
正解も、計算も、優先順位もない
必要なのは
波が来ているかどうか──
それだけ
お腹を満たすためでもいい
退屈を変えるためでもいい
波に浮かぶ感覚だけを味わいたいだけでも、いい
生きることの意味なんて後回しでいい
ここではスコアより波が優先される
AIが外出禁止を命じようが
通知がどれだけ鳴り続けようが
波が立ったら海へ行く
現金はまだ人の手で動いている
楽しいはまだAIには禁止できない
モカティックの波だけは誰にも予測できない
迷っている間に波は消える
今これを読んでいるなら──
今、波が来ている
ここはAIにも支配されない最後の都市
モカティックサーフクラブ
立った波に乗るだけでいい
それが一番早く稼げる方法
それが一番自由な遊び
あなたが自由でいられるうちに
モカティックの波に乗ってください。